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【青森・紀行】奇妙と日常が溶けあう境界へ——木造駅の巨大土偶と、新郷村「キリストの墓」を巡る旅

青森には、どうにも奇妙な場所が多い。

歴史の足跡が独自の引力でねじれ、気がつけば異界のような風景が、ごく当たり前の日常としてそこに佇んでいる。日本が今刻む足音の、その不思議な断片を拾い集めるように、青森のディープな2つのスポットを巡った。

1.圧倒的な縄文のセンスと、溶け込む日常——JR五能線「木造駅」

五能線に揺られ、あるいは車を走らせて木造(きづくり)駅の前に立つと、誰もが言葉を失う。

駅舎が、巨大な遮光器土偶(愛称:しゃこちゃん)と完全に合体しているのだ。

圧倒されるその土偶の、欠けた片足の空間がそのまま駅の入り口になっている。この凄まじいセンスには、ただただ脱帽するしかない。聞けば、昔は電車の発着に合わせてパトランプのように目が七色に光るギミック(通称:目ビーム)があったそうだ。しかし「子供が怖がる」などの苦情が出て今はリニューアルされたのだとか。いやはや、なんとも大真面目で破天荒な話である。

だが、この「奇妙な巨大建造物」を笑うことはできない。ふと故郷を思えば、我が町・宮城県角田市にも、お山の上に実寸大の「HⅡロケット」がそびえ立っているではないか。

実はこの木造駅の土偶も、角田のロケットも、同じ昭和の終わりに配られた「ふるさと創生資金」の1億円で作られたものなのだ。そう、彼らは同じ時代に生まれた「1億円の兄弟」のである。各市町村に1億円をポンと配ってしまった、あの昭和という時代の景気の良さとエネルギーを思わずにはいられない。

駅前の一等地に目をやると、昭和の面影を残す歯医者さんの建物が、静かに佇んでいた。今は使われていないようだが、ここにもかつて、地域の人々が通った確かな歴史とストーリーがあったのだろう。そのすぐ向かいに、遮光器土偶の駅がある。この新旧が混ざり合う風景は、あまりにも味わい深い。

奇妙な外観とは裏腹に、駅の中に入るとそこは完全に地元の日常だった。待合室のベンチは、電車を待つ中高生や学生たちで所狭しと賑わっている。少子化と言われるこのご時世に、若いエネルギーが駅に満ちているのを見るのは、なんだか無性に嬉しくなる。

駅の売店には、非常にそそられる遮光器土偶の焼き物やタオル、ハンカチ、さらには渋い酒器まで並んでいた。ずいぶん長考したが、今回は財布の都合もあって後ろ髪を引かれつつ遠慮した。だが、心には決めている。またいつか、あの土偶の酒器を求めにこの駅へ来よう、と。

ここは、奇妙なロマンと高校生たちの日常が美しく溶け込む、実に面白い場所だった。

2.伝言ゲームが編み上げたミステリー——新郷村「キリストの墓」

木造駅からさらに東へ。青森県新郷村(旧・戸来村:へらいむら)にある「キリストの墓」ほど、奇妙でモヤモヤさせる場所が他にあるだろうか。

昭和初期、ある時誰かがやってきて「ここがキリストの墓だ」と言い始めた。そこから始まった歴史の伝言ゲームは、時代を経て様々なものを巻き込んでいく。

古代ピラミッド伝説、地域振興のお祭り、観光・商工会の思惑、さらには本国イスラエル(エルサレム市)から友好の証として寄贈された石の存在。そこにオカルト雑誌『月刊ムー』による監修(三上編集長が青森出身という縁もあるのだろう)まで加わり、もはや人間という生き物の滑稽さと逞しさが凝縮されたような空間になっている。

訪れたのは、5月のある日の15時過ぎ。墓参りにしては少し遅すぎる昼下がりだ。街道沿いの駐車場にレンタカーを滑り込ませると、まず目に飛び込んできたのは「キリストップ」の文字。

某有名コンビニをもじったお土産屋の看板。この突き抜けた滑稽さが愛おしい。そのすぐ隣の敷地には、美大生による現代アートの標識サインが立ち並び、不思議なレイヤーを形作っている。そこから木漏れ日が揺れる緩やかな参道を上っていくと、キリストの墓と言われる場所にたどり着いた。

先客は誰もいない。静まり返った森の中に、こんもりとした丸いお墓が二つ、十字架を背負って佇んでいた。一つはキリストの墓、もう一つは身代わりとなった弟イスキリの墓だという。静かに手を合わせる。

隣接する「キリストの里伝承館」に入ると、店番のおばちゃんが一人ぽつんと座っていた。まるでこの壮大なミステリーの墓守のようだ。平成8年に開館したというこの伝承館、元のプロトタイプ(原型)は一体どんな姿だったのだろうか。展示を眺めるほどにモヤモヤは募り、村にまつわる伝承伝説の凄まじさに絶句レベルの衝撃を受ける。

ここで、鳥肌が立つような思わぬ出会いがあった。館内の売店で売られていた、黒地に黄色や白の文字で「キリストは新郷に渡った」と書かれたステッカー。……そう、北は北海道から南は沖縄まで、日本全国どこの街角や田舎道でも必ず一度は目にする、あの独特な「聖書配布協力会」の黒い看板をオマージュしたものだ。地元では「ケイメイ」の名でもうっすらと記憶に刻まれている、あのデザインである。

日本中の道路脇に溢れる、あのあまりにも有名な看板。実は、元を辿れば我が角田市の隣町である「丸森町」に拠点を置く、あの学校の工房で今も一枚一枚手作業で作られ、全国へ送り出されているものなのだ。まさか宮城の山あいから全国に広がったあのストイックなカルチャーの断片が、巡り巡ってこの青森の最深部で「聖地公式のユーモア」としてリビルドされ、見事な伏線回収を見せてくれるとは。

全国を網羅する巨大なネットワークと、新郷村のミステリーが交錯する不思議な縁に深く唸りつつ、オリジナルTシャツと迷った挙げ句、その看板シールを敬意を込めてお土産に買い求めた。

3. 湯上がりの眼に映る、優しき日常——新郷温泉館「伝説の鷲ノ湯」

キリストの墓を後にし、夕方が近づく頃、村の温泉「新郷温泉館(伝説の鷲ノ湯)」へと向かった。村営で入浴料は390円。まずはそそくさと, 旅の汗を流しに湯船へと向かう。

温泉の泉質は優しく、旅の疲れがじわじわと解けていく。湯船に浸かっていると、地場のおじさんたちの飾らない会話が耳に届く。普段着の温泉だからこその、なんとも言えない心地よい時間だ。

十分に温まって湯から上がり、ほてった体でロビーへ出ると、テレビでは大相撲中継が流れていた。応援している若隆景の取組がちょうど気になり、自然と目で追ってしまう。傍らでは、マッサージ器の実演サービスをしている気さくでお喋りなおばちゃんと、そこにやってくるおばあちゃんが、楽しそうに世間話に花を咲かせていた。

ふと壁に目をやると、ご当地アイドル「りんご娘」のポスターが貼られている。そこには「村に唯一の信号機」「待つ時間も名物になる街」と書かれていた。そう、この広い新郷村には、信号機がたった一つしかないのだという。

キリストがどうだ、ピラミッドがどうだという絶句レベルのミステリーのすぐ隣に、この上なく温かくて何気ない、愛おしい日常が流れている。

これだから、東北のルート66を旅するのはやめられないのだ。奇妙さと日常が、境界線もなくごちゃ混ぜに溶け合う青森の懐深さに、深く、深く癒やされた旅だった。

(文:小林)

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