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カウンターの向こう側にある、いくつかの幸福について

日常は、不意にやってくるいくつかの断片で満たされている。

その日は、久しぶりに顔を見せた同級生夫妻の姿から始まった。
「おっ!ゆたかちゃんごぶさた~いらっしゃい!」
入口をくぐってきた二人に声をかける。いつ見ても仲のいい夫婦だ。カウンターの向こうからそのほのぼのとした空気を眺めているだけで、こちらの強張りが少し緩むのがわかる。

その二人を視界の端に置きながら、新しく入ってきた気配に目を向けた。
「はい!いらっしゃい」

きょろきょろとあたりを見回しているのは、高校生風の若い男の子だった。少し緊張した面持ちで、入り口の券売機で食券を買い、カウンターの席に腰を下ろす。

「毎日ここの前を通って、隣町から角田に通学してるんで、ずっと気になってたんですよ……」

はにかむような笑顔で、女将に向かってぼそぼそと話し始めた。
「最近、『山賊の肉そば』って看板が出てますよね。あれが気になって、今日は思い切って入ってみました」

制服の向こうにある瑞々しい少年の表情を見ていると、こちらの胸の奥にも小さな火が灯る。おし、オンチャン頑張るぞ。一番旨いところを作ってやっからな。言葉には出さないけれど、心の中でそう呟きながら湯気をあげる。

「はいお待ち!山賊の肉そば!」
「ありがとうございます!頂きます!」

差し出された器に向かって、男の子は夢中で箸を動かし始めた。
山賊の肉そばは、うちのラインナップのなかでも少し値が張る。彼にとっては、限られたお小遣いを大奮発しての注文だったはずだ。汗をかきながら、一心不乱に麺をすするその横顔は、どこか愛らしく、そして何より有り難いものに見えた。

「ご馳走様でした!」
「どうもね!ありがとうございました!」

店を出ていくときの笑顔を見送る。なんだか自分の孫でも眺めているような、おかしな錯覚を覚えた。
ただ料理を作り、それを提供しただけなのだが、私の方が何とも言い難い温かな幸福感を分けてもらったような、静かな満たされ方がそこにはあった。

彼が帰ったあと、女将が少し嬉しそうに教えてくれた。
店を出る間際、彼は小さな声でこう言い残していったのだという。

「めちゃくちゃ旨かったです!家族に自慢します!」

角田の街を、今日もまた彼が通り過ぎていく。
ただそれだけの、けれど確かにそこに立った足跡のような、今日の一幕。

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