「あんなどごろさハートだど」
「なぬすんだほだもの……」
福島県相馬市・鵜ノ尾岬(うのおみさき)に「ハートのモニュメント」が設置されてから、地元でそんな声が聞こえるようになった。声の主の多くは、この土地で長く暮らしてきた年配の方々だ。
おそらく、彼らはまだ現場に足を運んでいない。「いつでも行ける地元の名所」だからこそ、日常の中でわざわざ行く機会は少ない。想像のなかだけで「あの厳粛な岬にハートなど不釣り合いだ」と、遠巻きに眺めている。その感覚は、分からなくもない話だ。

鵜ノ尾岬は、福島県立松川浦自然公園の一部をなす。
南北から伸びた砂嘴が接続してできた砂州の先端にあたり、内側に抱かれた潟湖「松川浦」はホッキ貝や海苔の漁業拠点として知られる。岬の突堤には海洋調査船「へりおす」遭難事故の慰霊碑が佇み、北側には白亜の鵜ノ尾埼灯台が立つ。穏やかではない歴史が、この場所には刻まれている。
砂州部分を走る「大洲松川浦ライン」は、東日本大震災の津波で破断された。それが復興し、今では太平洋と松川浦を両岸に望むルートとして再び車が行き交
倒されるような景色がそこにある。松川浦大橋や原釜尾浜海水浴場、浜の駅も含め、ここは相馬のひとつの象徴的な風景だ。

その風景のなかに、ぽつりと置かれたハートのモニュメント。
物議をかもしているという噂を背に実際にその場へ行ってみると、そこには行列ができていた。
若いカップルだけでなく、家族連れ、そしてお年寄りまで、老若男女がそのモニュメントの前に立ち、スマートフォンのレンズに向かって笑っている。
「行けば、わかる」
文字通り、それだけのことだった。
世の中には、仕掛けられた観光地や、意図的に作られた映えスポットが溢れている。しかし、この岬に置かれたハートには、それらとは少し違う空気がまとわりついているように思える。
あの震災を経て、風景が一度壊れ、また作り直されてきた相馬の海岸線。
多くの人が流した涙や、過ごしてきた時間の重なりがあるからこそ、この剥き出しの絶景のなかに置かれた「ハート」という直球な記号が、奇妙な説得力を持って人々の笑顔を引き出しているのかもしれない。
この記事を書いている今日、相馬では伝統の「相馬野馬追」が開催されている。
何百年も形を変えずに続いてきた武者の祭りが執り行われているまさにその日に、新しく変わりつつある相馬の海辺に思いを馳せていると、胸の奥にどこか感慨深いものが残る。


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