fbpx

常磐の風に吹かれて――昭和ノスタルジーの深淵へ(完結編)

噂には聞いていたが、足を向けるのは初めてだ。いわきを語る上で欠かせない炭鉱の歴史。それが一箇所に凝縮されているという「みろく沢炭砿資料館」を訪ねた。

到着するやいなや、炭鉱長屋の遺構とトロッコ車両が目に飛び込んでくる。その傍らには、鋸(のこぎり)形状の屋根を持つバラック小屋。入り口には「みろく沢炭砿資料館」と手彫りされた木製看板が掲げられている。この佇まい、ただものではない。

「こんにちは、見せてください」
私の声に応えて奥から現れたのは、物腰の柔らかな男性だった。聞けば、炭鉱マンとしてこの地を拓いた先代の館長・渡邉為雄氏は既に他界され、現在は息子の秀峰さんがその遺志を継いでいるという。

千葉での生活を切り上げ、単身でこの地を守る道を選んだ秀峰さん。その案内で一歩足を踏み入れれば、そこは時代の宝物殿であった。
実はこのバラック、先代が鉱夫を退いた後に営んでいた「養鶏場」の跡だという。鶏舎が、今や国の「近代化産業遺産」として認定される資料館に姿を変えている。親子二代、私財を投じてこの場所を守り抜く――その覚悟の重さに、私は思わず息を呑んだ。

「カーバイドって、知ってます?」
秀峰さんがおもてなしの代わりに差し出したのは、白い鉱石のような塊だった。それを水に浸けると、シュルシュルと泡が立ち始める。
「これがアセチレンガスです。当時のカンテラの命ですよ」
目の前で繰り広げられる、生きた科学実験。カンテラの青白い火、トロッコの運行事情、そして石炭の着火実験。秀峰さんの語りは止まらない。その熱量は、まるで地下深くで燃え続ける石炭そのものだ。先代から受け継がれたであろう「情熱のDNA」が、この空間の歯車を力強く回している。

世間では後継者不足が叫ばれて久しいが、真に熱い思いは、損得を超えて人を動かし、自然と繋がっていくものなのだ。宿を営む身として、その「守り抜く力」に深い感銘を覚えずにはいられない。

これほどのヒストリーを1時間以上にわたって聞かせていただきながら、なんと見学は無料。感動のあまり募金箱へ思いを託すと、秀峰さんは照れくさそうに笑った。
「梅干し、いる? 結構漬けたから、お裾分け」
思わぬ申し出に、私は「欲しいかも……」と遠慮がちに、しかししっかりと頷いた。秀峰さん特製の梅干し。いわきの根底にある「人の力」を象徴するような、温かい土産物だ。

日も傾き始めた。
いわきの真髄を堪能し、心地よい疲労感とともに帰路につく。
熱い話を聞くと、不思議と腹が減る。思えば今日はあの巨大なシュークリーム一個きりだ。

常磐道を走り、郡山方面へ。空腹の私が目指すのは、舞木ドライブインの「焼肉定食」一択だ。ガッツリと白飯を掻き込み、福島の旅を胃袋に収める。

利便性の裏側に隠れた、泥臭くも愛おしい昭和の残像。
それらに触れた今回の旅は、明日からの私を支える確かな糧となった。
いわきの風は、最後まで熱かった。


  • コメント: 0

関連記事

  1. 秋の宮城・山形紅葉ツーリングにおすすめ「みちのくおとぎ街道」特集。おとぎ街道沿いの観光スポット・グルメ・東北ツーリングにおすすめのライダー歓迎宿をご紹介します。

  2. 宮城で海釣りするなら、亘理町荒浜へ。連日満席、人気の釣り船 孔明丸と、前泊の宿におすすめなゲストハウスの魅力をご紹介

  3. 阿武隈急行線で宮城・福島 鉄道グルメ旅!福島駅~角田駅編)あぶ急沿線グルメ・観光スポット・鉄印帳や記念スタンプ・鉄道ファンにおすすめの宿をご紹介

  4. 蔵王のお土産にぴったり。宮城の若手杜氏家が手掛ける蔵王酒造の魅力。東北の地酒が飲み比べられるレストランも併せてご紹介

  5. 宮城県版 ゴートゥトラベル みやぎ宿泊割キャンペーン

    買って、泊まって、お宿を応援!みやぎ宿泊割キャンペーンが気になってしょうがないあなたに宮城県南旅をご紹介。

  6. 東北、夜だけに現れるもうひとつの世界

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。