鳥中華改め、ラーメン
restaurant&bar Panch のランチ営業「となりの肉そば」で提供しているラーメンは、
もともと山形の鳥中華として出していた一杯が原型だ。
ただし、現在のラーメンは当時の鳥中華とは立て付けからして違う。
変わらないのは、ベースにある鶏ガラスープだけ。
タレは引き直し、麺は太ちぢれ麺に変更。
具材も、親鳥のチャーシューと玉子とねぎだけだった以前の構成から、
メンマ、ナルト、豚チャーシュー、青ねぎ、白髪ねぎ、
そして背脂を少々という、いわゆる中華そばの様相へと大きく舵を切った。

鶏ガラスープはそのままに、麺・タレ・具材はすべて刷新。
方向性としては、山形の鳥中華というよりも喜多方系に近い。
見た目も味わいも、「鳥中華改めラーメン」というキャッチフレーズが示す通り、
同じ延長線上にはない一杯になっている。
ラーメンとしてのデビューは、昨年9月ごろ。
静かな切り替えだったが、店内の空気は少しずつ変わっていった。
冷たい肉そば屋のラーメン、という立ち位置
この店の主軸は、あくまで 蕎麦ではなく、冷たい肉そば。
山形の郷土料理である冷たい肉そばを、店なりに進化させた一杯が看板だ。

この店の主役は、今も変わらず冷たい肉そば。
実際、来店客のほとんどが冷たい肉そばを注文する。
季節柄、温そばの注文が増える時期はあるものの、
1日の注文構成の大半が肉そば系であることに変わりはない。
そんな中で、かつて全体の5%ほどだった鳥中華の注文が、
ラーメンに切り替えて以降、ある日ふと気づくと
全体の約50%を占めていた。
ラーメンは競合の多い世界だ。
半径20km圏内には名店も行列店も珍しくない。
それでもこの店のラーメンは、ラーメン専門店の土俵には上がらない。
「冷たい肉そば屋のラーメン」。
特別でなくていい、二番目三番目に思い出してもらえる、
日常の延長線上にある一杯。
主役と脇役が入れ替わることはない。その距離感がちょうどいい。
夏になれば冷たいラーメンも出す予定だというが、
それもまた主役交代ではなく、
店の風景の一部として加わるだけだ。
理由は、だいたいそんなもの
では、なぜラーメンに変えたのか。
店主に聞くと、返ってきた答えは拍子抜けするほどシンプルだった。
「喜多方系、食べたかったんですよ」
わざわざ食べに行かなくても、自分で作ればいい。
とりあえず作ってみよう、といういつもの流れだったという。
もう一つ言えば、「なんとなく、こっちの方がチャンスがありそうな気がした」。
理由はそれだけで、深い戦略があったわけではない。

券売機の前に立ったときのワクワク感を想像しながら、メニューは作られる。
この店の料理は、だいたいそんな始まり方をしている。
店主が食べたいものを直感で研究し、いい感じになったら出す。
メニューバランスを眺めながら、
もし自分が客席に座り、券売機の前に立ったら
何を選ぶだろうか——その想像からすべてが始まる。
冷たい肉そばも、ラーメンも、その延長線上にある。
気がつけば支持され、気がつけば店の風景に溶け込んでいる。
この店にとってのラーメンは、主役交代ではない。
いつものやり方で、いつものように増えただけの一杯なのだ。


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