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ばっけみそ

かつてのシルクロード、阿武隈川。かつて養蚕が盛んであったこの地域では、シルクの原料である繭玉が、この川の流れに乗って福島へと運ばれていった。福島ではメリヤス産業が盛んであり、川は二つの地を繋ぐ動脈だったのだ。

今日のカウンターは、やけに福島からの客が多い。
「今日、349(サンヨンキュウ)のバイパス開通なんだよ」
客の一人が何気なく放ったその一言で、合点がいった。国道349号線は、阿武隈川のすぐ脇を縫うように走る道だ。川沿いゆえに道幅は狭く、大雨による増水や台風のたびに路面が崩れ、通行止めを繰り返してきた危うい道のりでもあった。
さて、この時期になると決まって思い出す景色がある。
あの険しくも美しい川沿いの土手や山々で、師匠とフキノトウを摘んだ日々のことだ。
師匠は当時すでに父親の年齢よりも上の世代で、十数年の付き合いがあった。早くに亡くなった親父の代わりに、山菜採りから山での遊び方まで、そのすべてを私に伝授してくれた人だった。
「ほら、ここにあるぞ」
枯れ葉をそっと退け、顔を出したばかりの黄緑色の芽を指さす師匠。その背中は親父よりも少しだけ大きく、そして少しだけ遠かった。

収穫した「産物」は店へと持ち帰り、天ぷらや“ばっけみそ”に仕立てる。
包丁を入れるたびに立ち上がる、あの鼻を突くような、それでいて春の訪れを確信させる苦い香り。
師匠の笑顔が思い浮かぶ。亡くなって、もう何年になるだろうか。
バイパスが開通し、道は広く、安全になった。けれど、あの不便で狭い旧道沿いで、春の息吹を探して歩いた時間の熱量は、新しいアスファルトの上には転がっていない。
師匠の教えを思い出しながら、今年も私は「ばっけみそ」を作る。
あの頃と同じ、少し苦くて、春を知らせる味だ。

ばっけみそ

春先、山の土がまだ冷たいころ。
枯れ葉の下から顔を出したふきのとうを、いくつか籠に入れて帰ります。
数はきっちり決めなくて構いません。その日の山が「これくらい」と言った分だけで。

持ち帰ったふきのとうは、まず土を落とし、さっと湯にくぐらせます。
長居はさせません。
香りが逃げる前に引き上げ、冷たい水で一息つかせます。
苦味が強ければ少し長めに、春をはっきり感じたい年は短めで。

水気をしっかり絞ったら、包丁で細かく刻みます。
音を立てて叩くというより、
香りを閉じ込めるように、静かに。

鍋に味噌を入れ、砂糖、酒、みりんを少しずつ。
火は弱く、焦らせないこと。
艶が出てきたところで、刻んだふきのとうを加え、さっと混ぜ合わせます。

火を止める頃合いは、
「もういい」と思った、その一瞬手前。

少し苦くて、少し甘い。
白いご飯にも、熱燗にも、春の訪れにもよく合います。

分量は、毎年同じでなくていい。
あの日、師匠がそうだったように、
その年の春の顔色を見ながら決めれば、それで十分です。

材料(目安)

ふきのとう:100g前後(10〜15個ほど)
味噌:100〜150g(ふきのとうと同量か、少し多め)
砂糖:大さじ2〜3
みりん:大さじ1〜2
酒:大さじ1〜2
油(ごま油など):少々

※分量はあくまで目安です。
苦味を強く出したい年、やさしくまとめたい年で、少しずつ変えて構いません。