
それは突如として現れた。
冷蔵庫の下、歳月が刻んだ床のシミの中に浮かび上がったのは、ひとつの「ハート」。
故意に作られたものではない。長い時間が偶然に、あるいは必然に落とした落款(らっかん)のようなものだ。
スタッフの一人が小さくつぶやいた。
「あ、ハート……」
その声に、誰もが気づいている。
けれど、誰もそれ以上は口にしない。
ただ、小忙しく冷蔵庫を開け閉めする一瞬、ふと視線が落ちる。
そのたびに、ささくれ立った気持ちがわずかに凪ぎ、呼吸が整う。
厨房の片隅、そこは一秒だけ自分を取り戻す場所になった。
今の僕らには、ハートが必要だ。
あらゆる意味において。
